鍼治療と聞くと、肩こりや腰痛の緩和、ストレスの軽減といった効果を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、近年の研究から、鍼治療が腸内環境、特に腸内細菌のバランスに良い影響を与える可能性が示唆されています。腸内細菌のバランスが整うことで、私たちの体全体の健康にどのような好影響があるのかを知ると、鍼治療の新しい効果に驚かれることでしょう。
鍼治療が腸内フローラに及ぼす影響
腸内細菌は「腸内フローラ」と呼ばれ、腸内でさまざまな役割を担っています。中でも、バクテロイデテスとフィルミキュテスという細菌の割合は、健康状態に深く関わっているとされています。これらは腸内に多く存在する細菌の2大グループで、バランスが崩れると「ディバイオ症」という腸内フローラの乱れが生じ、肥満や代謝性疾患、免疫系のトラブルの一因になると考えられています。
興味深いことに、いくつかの鍼治療に関する研究では、鍼治療を行うことでバクテロイデテスの数が増加し、フィルミキュテスが減少するという結果が示されました。この変化は、腸内フローラが好ましい状態に整うことを示すもので、フィルミキュテス対バクテロイデテス(F/B)比率が改善することが確認されています。
鍼治療によるディバイオ症の改善
鍼治療が腸内フローラに働きかけることで、乱れた腸内細菌のバランスを正常化し、ディバイオ症を改善する可能性が見えてきました。ディバイオ症は、腸内フローラの構成が偏り、身体の様々な部分に不調をもたらすとされています。例えば、肥満の人ではフィルミキュテスが過剰に多い傾向があるといわれていますが、鍼治療によりこの細菌が減少し、代わりにバクテロイデテスが増加することで、代謝の改善や免疫力の向上が期待できるのです。
鍼治療がもたらす「体全体の健康効果」
鍼治療の効果は痛みの軽減やリラックス効果だけではありません。腸内フローラを整えることは、実は心身の健康にとても重要です。腸内細菌がバランスよく保たれていることで、消化機能が向上し、栄養の吸収がスムーズになり、免疫力も高まります。さらに、腸と脳は密接に関わりがあるため、腸内環境の改善はストレスや気分にも好影響を与えると考えられています。
まとめ:鍼治療を新しい視点で見直してみよう
鍼治療が腸内環境にポジティブな影響を与える可能性があるという発見は、私たちがこの治療法を健康管理に活用するための新たな視点を提供してくれます。日々の食事や運動に加え、鍼治療を取り入れることで、体全体のバランスを整え、心身の健康をサポートすることができるかもしれません。腸内環境の改善に関心のある方は、一度鍼治療を試してみてはいかがでしょうか?
参考文献
Wang, Y., Zeng, Y., Chen, X., Lu, A., Jia, W., & Cheung, K.C.P. (2024). Gut microbiota modulation through Traditional Chinese Medicine (TCM) - Improving outcomes in Gastrointestinal (GI) cancer prevention and management. Pharmacological Research - Modern Chinese Medicine, 13, 100528. https://doi.org/10.1016/j.prmcm.2024.100528